ちょっと遅れましたが、平成27年3月29日(日)前金沢市長、山出保氏の講演会の様子をお知らせします。

山出氏講演

山出氏講演

金沢に新幹線がやってきて2週間。相変わらず駅周辺の混雑はすごい。車も人も、吹き抜ける風さえ何か慌ただしい。こんな時は少し立ち止まって考えるに限る。
そんなわけで、今日の総会記念講演は今最も旬な話題となった。タイトルは「ものづくり・まちづくり・金沢の物語」講師は元金沢市長の山出保氏である。渋い着物姿がとにかく似合っている。金沢の文化を語るにはまずたたずまいが基本なのだ。氏の姿はそう語っているようだった。保険協会総会で初めての文化企画。初めての試みはいつでも緊張するものだ。そして、当日の司会はかく言う私だ。3月29日日曜日、ホテル金沢の会場は申し込みの倍の観客で埋まっている。
講演タイトルの由来から話は始まった。岩波新書「金沢を歩く」のサブタイトルが、そのまま今日の講演演題となっている。山出氏と岩波書店の浅からぬ縁。旧知の間柄である岩波書店元社長の安江良介氏は金沢出身。生家は金箔職人として生計を立てていた。ここから、話は安江金箔工芸館へと繋がっていく。なぜ東山1丁目へ移転したのか? 元々金箔は浅野川、犀川という両川のほとりで栄えた。故にそのゆかり地へ。説明を聞けば、すべてが頷ける。知の楽しみとはこういうことを言うのだろう。まだ話はイントロだ。
「真のおもてなし」とは何か? 「自分の町を知らずしておもてなしなどできますか?」
冒頭から痛いところを突いてくる。
ここからの1時間半、話は実に盛り沢山。あまりの博識に驚くばかり。特に橋の数、個々の著名人、地名などがあふれるように出てくる。市長って、こんなに町のことを知らないと務まらないものなのか? 感心するのを通り越して唖然としていた。
「まちづくりにはストーリーが必要」氏の哲学だ。金沢の市勢(人口増加)、観光客数、最高路線価、スライドに描かれるグラフは直感的で説得力がある。次に歴史、地形と、基本的講義が続く。もっとも口調はあくまで柔らかく、用水の数、大学の数などは、本論への導入だろう。
伝統と現代の共存。保存と開発の両立。中でも町中の旧きものを残すのが、氏の言う文化そのものなのだろう。茶屋街、寺院群、そのたたずまいを壊さずに残す。「茶屋街は芸を見せるところであって、土産物を売る所ではない」市の観光課に聞かせたい言葉だ。湯布院の町並みに乱立する看板を例に、町並み保存の難しさを語る。重要伝統的建造物群保存地区の指定にたどり着くまでの苦労も淡々と語る口調の故に、よく伝わってくる。
ここからは人の話へ移る。伝統的建造物を残すためには、それを修復あるいは改築できる職人が必要。そこから、職人大学校が生まれた。確かにまちづくりには、ストーリーが必要だ。確固たる哲学と緻密な計算。金沢にこんな名市長がいたのだ、と今日改めて知らされた。
金沢21世紀美術館の誕生。金沢駅東、西広場を飾るモニュメント。そして、郷土の生んだ偉人達の話へ。よどみない語りはただ聴衆を魅了する。特に金沢駅東の「鼓門」のエピソードは面白かった。賛否両論、著名人からも不評はあったが、トラベルレジャー誌で「世界で最も美しい駅14駅」に選出されて、その声も収まったとか・・。
話はとにかく面白い。1時間を過ぎても、春眠の誘われる聴衆は皆無だ。話は一層弾む。文化は三つのカテゴリーに! 1)伝統文化、2)新文化、3)食文化。金沢は空から謡が降ってくる町。かっての金沢は、植木職人さんが剪定をしながら、謡をたしなんだ。何ともはや、心が和らぐ。金沢はつくづく奥の深い町だ。
国指定の伝統工芸が6種。市指定の希少伝統工芸が17種。さすがに覚えきれない。これが演者の口からは、立て板に水のごとくすらすらと出てくる。工芸→からくり→力織機、と連綿と続く金沢の産業。津田駒へと繋がる系譜に皆が頷く。
金沢港、北陸新幹線は外への窓。もうここまで来ると、金沢のすべてを知ったような気分になる。講演を通じて、山出さんが繰り返し使った言葉は、「文化と観光を両立させるために、大切なことは常に抑制的であること」だった。文化と学術を大切にすれば、観光は後からついてくる。共通しているものは、観光を追い求めすぎるな!本質を見失うな!ということだろう。1時間半、山出イズムに魅了された講演会だった。