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この国に原発は必要か②

低線量被曝~その2 誰(た)がために医者はある~

4月4日、一通の電話が仕事場に掛かってきた。「5月連休の会津磐梯温泉ツアーは中止になりました」 昨年12月に予約した旅行である。フーッ。ため息が自然に出る。
平成20年7月20日、私は福島県にいた。目の前には、会津盆地が雄大な姿で広がっている。緑の水田の中に点在する家屋。空は抜けるように青く、通り過ぎる風がひたすらに優しかった。数百年前も同じ風景がここにあった。そう自然に思えた。私の背後には、復元された会津藩校日新館が凛として立っている。白虎隊を生んだ会津のエリート校であり、同時に、未だに悲劇の香りに彩られた空間である。、
会津の街は、酒屋が多い。日本有数の銘酒の産地であり、小原庄助さんに代表される粋をさりげなく感じさせる街。三間ほどの通りに街路樹と白塗りの土蔵が映える。歩くとその絶妙の広がりを体で感じる。白虎隊と庄助さんに象徴される会津人の義と粋、その両面性が私は好きだ。その会津、そして福島が塗炭の苦しみの中で今助けを求めている。胸が痛む。なぜ、再び福島なのだ?

この原発事故がなかったら、もしなかったら・・。今でもそう思う。地震と津波という惨禍の中で、ただ共に泣き、共に手を取り、励まし合えたはずだ。だが、現実は違う。放射能に汚染された周辺地域はもちろん、海も山も畑も想像を超えるエリアが被曝という目に見えぬ敵に翻弄されている。福島産のすべての生鮮食料品は、全国への流通が止まった。不思議なことに、その止まった食料品が福島県のスーパーには山のように並んでいる。これは一体どういうことだ。明治以来、この国の有り様は、ちっとも変わっていない。

今、福島を襲っている最大の脅威は、放射能汚染だろう。原発周囲はゴーストタウンと化し、遺体の回収さえままならない。被曝という怪物は、時に風評被害を生んでいるが、一方で静かに住民を蝕んでいる。原発事故の真の罪は、まさにここにある。不安と偏見が渦巻く中で、人と人の絆が断ち切られていく。人としてのあらゆる営みが現在進行形に破壊され続けている。
誰もが不安なのだ。誰もが真実を知りたいのだ。地域の未来を託す子ども達を守るために福島の人たちは必死なのだ。なのに、どうしてきちんとした真実を伝えない。放射能汚染が明らかなら、そう伝えるべきだ。そして、そこから生じる損害は国が当然保証すべきだ。もし、本当に安全なら、それを証明すべきだ。ただし、それは政治の仕事ではない。政治家が安全かどうか決めるなど、馬鹿げた話だ。そんなところに政治的判断などありえない。あるのはただ真実のみである。
日本医師会は国民を守る、と言った。なら、どうして何も言わない。日本最大の医師集団であり、学術集団と自負する組織がなぜ、この危急のときに真実を伝えない。私には理解できない。外部被曝と内部被曝が混同され、その基準値さえも同列に論じられる。内部被曝にしきい値など存在しない。マスコミは、根拠のない安全情報を垂れ流し、国民は何を信じて良いのかさえ、判断に迷う。

東京大学放射線科、中川恵一准教授は自身のツイッターで、「たとえ妊娠中の胎児であっても100ミリシーベルト未満なら影響は出ない」「100ミリシーベルトの蓄積で発がん率が上がると言っても、0.5%程度の上昇である。これは、日本のガンの発生率50%が単純に50.5%になる計算」と述べている。彼は、同じくJMS4月号で、食品汚染恐るるに足らず、という記事にも登場している。彼の罪は深い。東大医学部という肩書きで、彼が流し続ける情報の罪をどうして日医は座視するのか。慶応大学医学部放射線治療科の近藤誠講師は「福島第1原発事故に関し、マスコミに登場する放射線専門家は安全を強調するが、嘘やごまかしが多すぎる」と断じている。

日本のアカデミズムは、危うい。今、痛切にそう思う。
立命館大学名誉教授安斎育郎氏は、「科学と教育の果たすべき役割」という講演で以下のように述べている。

僕は、東大の医学部で 17年間助手をやっていたんですけれども、そのときにひどい差別に遭ったんです。なぜかというと、僕は国の原子力政策について歯に衣着せず批判をしていたんですね。いろんな観点から、日本の原発政策の危うさについて徹底的に批判し、そういう社会的な活動をやっていたんです。
僕は、東京大学の工学部の原子力工学科の第1期生、草分けなんですね。その草分けが何のためにいるかというと、日本の原子力発電を推進するためにこそ、そういう人材養成のためにこそつくった学科だから、そこの第1期生が原子力政策に反対するなんていうのは、それは許されないでしょう。しかも国立大学だから、給料は国からもらっているわけですからね。国が、給料を出している者が国の政策に反対しているというので、徹底した差別に遭うわけですよね。教育業務は一切外されて、研究費も制限されますね。人事上の差別なんか朝メシ前だし、今日みたいに講演に来ると、安斎番という人が尾行をしてきて全部録音をして、主任教授に届ける係が決まっておりましたしね。僕の左隣には、安斎が次に原発で何をしようとしているかということを偵察するある電力会社差し回しの人ですが、安斎が原発で次に何をやろうとしているか、それを偵察する係でした。

話の信憑性を論じる気はない。私が語りたいのは、医師として何をなすべきか、その一点である。幸福なことに、大学6年間私は、おそらくは皆さんも、患者を救うことがすべてに優先すると教えられ続けてきた。医者とはあらゆる人に等しく最良の医療を提供するものだとも習った。なら、やるべきことははっきりしている。真実を過不足なく伝えなくてはならない。福島に生まれてくる新たな命を守るために、今何が起こっているのかを正確に伝えなくてならない。なぜ、危険なのか? どこにいればいいのか? いつ戻ってこれるのか? あらゆる質問に、継続的に答え続けていかなければならない。真実を伝えるのは決して政治の仕事ではない。彼らの仕事は真実に基づいて、国民の健康と財産を最大限に守ることだ。
医者は患者のために働くもの。それに優先するいかなる価値観も存在しない。国家のために真実を曲げるとしたら、それは医者として自殺行為だ。

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